水力発電の方式

水力発電は、発電形式(落差を生じさせる方法)により以下の種類に分けられます。

水路式
水路で水を導き落差を得る方法
ダム式
ダムに依って落差を得る方法
ダム水路式
ダムに依って得られた落差+水路で導いて得られた落差の両方を利用する方法

また、発電方式(水の利用方法)によって以下の種類に分けられます。

流込み式
(一時的な変動分を除き)水を蓄えず、そのまま流す方式
調整池式
短期間の運転を賄う水を蓄える方式
貯水池式
長期間の運転を賄う水を蓄える方式

あくまでも水力発電所側から見た使用水量を基準としますので、仮に同じ大きさの水を蓄えていた場合、
使用水量が少ない水力発電所の場合は貯水池式に区分されますが、使用水量が大きい水力発電所の場合は流込み式や調整池式に区分される事があります。

この他、電力ネットワークから見た区分もあります。

ベース供給用
出力変動の小さい運転を主に行う発電所で水力発電では流込み式が多く該当します。
ミドル供給用
ある程度の電力消費の変動を賄うための運転を行う発電所でベース供給用とピーク供給用の中間的な位置付けです。
ピーク供給用
ピーク時の電力消費を賄い、出力の変動が大きい発電所で揚水式水力が最も得意としています。一般水力の場合は逆調整池が設けられる事も有ります。
周波数調整用
高品位の電力を供給するために周波数の変動に応じて運転されます。突発的な変動もあるため河川流量に影響を及ぼさないような形態(逆調整池を設ける等)を採る事も有ります。

水路式

概要(一般的な方式)

水路式説明図1
水路式−流込み式を俯瞰した模式図です。
本図では取水堰より取水、無圧導水路にて導水しています。

河川の上流から、必要な落差が得られる場所まで水路によって水を引いてきて行う水力発電です。
場所の選定が比較的自由なため落差を稼ぎやすいです。


水路式説明図2
水路式−流込み式にて建屋方向より水平に見た模式図です。
本図では取水堰より取水、無圧導水路にて導水しています。

河川の勾配よりも非常に緩い勾配で導水することにより落差を生じさせます。

概要(水路直結)

水路直結式説明図1
水路式(水路直結)−流込み式を俯瞰した模式図です。

灌漑(かんがい)等の水路に於いて地面の勾配と合わせると勾配が急過ぎて分水、制水に不都合があるため緩い勾配にて設けられますが、
この際に出来る落差を有効利用するために水力発電所が設けられる場合があります。
この場合、特に勾配が緩い場合などを除き水路と建屋が直に接しています。
(特に勾配が緩い場合は圧力導水管等が用いられます)


水路直結式説明図2
水路式(水路直結)−流込み式での発電所建屋付近の模式図です。

落差は非常に小さく10m以下の発電所もあります。
基本的に発電所側の都合で流量を変更できないため、発電所の使用流量が少ない場合や停止した場合でも
全ての流量をバイパスできる大きい越流吐水路が設けられていますが、こちらが本来の水路としての扱いになります。

発電方式(水の利用方法)との組合せによる区分

水路式−流込み式
河川より直接取水又は(一時的な変動分を除き)貯水を行わない堰、ダムから取水します。
堰、ダムからの取水では堰、ダムによる落差の上昇分を考慮しない場合に水路式として扱われます。
取水設備が小規模で済みますが貯水されないため、天候(河川の水量)によって発電量が左右されるのが欠点です。
取水先にて貯水している場合であっても、発電所の都合で使用水量を変更できない灌漑水路直結型の水力発電所なども該当します。
水路式−調整池式
短期間の運転を賄う水を導水途中で調整池を設けて貯水します。
ある程度(私見ですが最大出力運転で数十分〜十数時間程度分)の河川の水量変化に対応できます。
取水先にてダムによる水位(落差)増加分があっても途中に調整池がある場合はそこからの落差となるため水路式となります。
水路式−貯水池式
長期間の運転を賄う水を導水途中で貯水池を設けて貯水します。
長期(調整池を超える運転時間分)の河川の水量変化に対応できます。

良く見られる組み合わせと実際の発電所

水路式−流込み式

鈍川発電所

四国電力 鈍川発電所

水路式−流れ込み式の発電所は比較的小規模な物が多いです。
画像の鈍川発電所は画像右奥の山向こうから0.78立方メートル毎秒を取水して導水する事により138.79mの落差を得て認可最大出力800kWの電気を生み出しています。


鈍川発電所取水堰

取水堰も小規模な物が比較的多いです。
出力が小さい代わりに他方式と比べると設置場所の制約は比較的少ないです。

ダム式

概要

ダム式説明図1
ダム式−貯水池式を俯瞰した模式図です。

川の途中にダムを設けて水を溜め、増加した水位によって落差を得て行う水力発電です。
大型のダムを除き落差を稼ぎにくいのが欠点です。


ダムによる水位増加説明図1
ダム式−貯水池式にてダム付近を描いた模式図です。
貯水池を透過して描いています。

溜まった水により増加した水位が落差となるため発電専用ダムでは水位は高めに保持されます。
水位変動が大きいため水位変動に対応できる取水設備が用いられます。

発電方式(水の利用方法)との組合せによる区分

ダム式−流込み式
(一時的な変動分を除き)貯水を行わないダムより取水している場合及びダムの河川維持水(河川維持流量)を利用した場合が該当します。
ダムの貯水量と関係なく河川維持水は一定量を常時流すために発電所の都合で使用水量を変更できないので流込み式となります。
また、一箇所のダムより複数の水力発電所が取水している場合、一定流量にて運用される水力発電所も流込み式となります。
ダム式−調整池式
短期間の運転を賄う水をダムに貯水します。
ある程度(私見ですが最大出力運転で数十分〜十数時間程度分)の河川の水量変化に対応できます。
ダム式−貯水池式
長期間の運転を賄う水をダムに貯水します。
長期(調整池を超える運転時間分)の河川の水量変化に対応できます。

良く見られる組み合わせと実際の発電所

ダム式−調整池式

第二鹿瀬発電所

東北電力 第二鹿瀬発電所

鹿瀬ダムに水を溜め、増加した水位にて得られた落差を用いて画像左手の第二鹿瀬発電所へと導水し発電しています。
調整池式の為、最大使用水量290.00立方メートル毎秒に対してダムの貯水量は227万立方メートルと比較的少なめです。
(更に鹿瀬発電所でも同じダムから最大270.00立方メートル毎秒を使用しています)
また、本発電所の場合はダム堤高が低い為、落差は22.10mとなっています。

ダム式−貯水池式

魚梁瀬発電所

電源開発 魚梁瀬発電所

魚梁瀬ダムに水を溜め、増加した水位にて得られた落差を用いて画像右下の魚梁瀬発電所へと導水し発電しています。
貯水池式の為、最大使用水量50.00立方メートル毎秒に対してダムの貯水量は7250万立方メートルと比較的多めです。
また、本発電所の場合はダム堤高が高い為、落差は85.10mとなっています。

ダム水路式

概要

ダム水路式説明図1
ダム水路式−貯水池式を俯瞰した模式図です。

ダムから水路で更に落差の得られる場所へ水を引いて行う水力発電です。
水路式とダム式を組み合わせた方式です。


ダム水路式説明図2
ダム水路式−貯水池式を俯瞰した模式図です。
地面を透過して描いています。

貯水池の中間水位より取水を行うため、通常は埋設の圧力導水路にて導水されます。


ダム水路式説明図3
ダム水路式−貯水池式を建屋方向より水平に見た模式図です。
地面を透過して描いています。

ダム直下に発電所を設けるよりも更に落差を得ることが出来ます。
通常、圧力導水路と水圧鉄管の接続部分に圧力変動を抑えるサージタンクが設けられます。


ダム水路式説明図4
ダム水路式−貯水池式にて取水設備付近を描いた模式図です。
地面及び貯水池を透過して描いています。
貯水池の水位を下げて描いてあります。

取水位は大きく変動するため対応した取水設備が設けられます。
模式図に描いている岸に沿って設けられるタイプ以外に塔状のタイプもあります。

発電方式(水の利用方法)との組合せによる区分

ダム水路式−流込み式
(一時的な変動分を除き)貯水を行わないダムより取水している場合が該当します。
また、一箇所のダムより複数の水力発電所が取水している場合、一定流量にて運用される水力発電所も流込み式となります。
ダム水路式−調整池式
短期間の運転を賄う水をダムに貯水します。
ある程度(私見ですが最大出力運転で数十分〜十数時間程度分)の河川の水量変化に対応できます。
ダム水路式−貯水池式
長期間の運転を賄う水をダムに貯水します。
長期(調整池を超える運転時間分)の河川の水量変化に対応できます。

良く見られる組み合わせと実際の発電所

ダム水路式−調整池式

神一ダム

北陸電力 神通川第一発電所

画像の神一ダムに水を溜めると、増加した水位にて40.78m(基礎岩盤から常時満水位までの高さとした場合)の落差が得られます。
直下に発電所を設けるとそれよりも若干少な目(ダムの基礎掘削深や水車設置位置等の条件により異なります)の落差となりますが、


神通川第一発電所

直線距離で約1.2km下流の神通川第一発電所まで導水(画像右下が発電所、画像中央の山向こうに神一ダムが在ります)する事により62.50mの落差を得ています。
また、本発電所は調整池式の為、最大使用水量150.00立方メートル毎秒に対してダムの貯水量は約308万立方メートルと比較的少なめです。
(更に庵谷発電所でも同じダムから最大100.00立方メートル毎秒を使用しています)

ダム水路式−貯水池式

黒部ダム

関西電力 黒部川第四発電所

画像の黒部ダムに水を溜めると、増加した水位にて180m(基礎岩盤から常時満水位までの高さとした場合)の落差が得られます。
直下に発電所を設けるとそれよりも若干少な目(ダムの基礎掘削深や水車設置位置等の条件により異なります)の落差となりますが、


黒部ダム天端より下流を望む

直線距離で約9km下流の黒部川第四発電所(画像奥に見える黒部別山の更に向こうに在ります)まで導水する事により545.50mの落差を得ています。
また、本発電所は貯水池式の為、最大使用水量72.00立方メートル毎秒に対してダムの貯水量は約1億4880万立方メートルと比較的多めです。



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