サージタンク(調圧水槽)

surge tank

サージタンク概要

サージタンクには水車の負荷変動やバルブの開閉の際の水圧の急峻な変化(サージ[surge]:水撃、水衝)を抑える働きが有ります。
通常は繰り返し加わる振動ではなく単体の振動が伝わってきて自励振動の動きとなります。
(共振は本来、繰り返し加えられる振動が増幅される現象ですが下の説明では便宜上近い意味合いで使用しています)

保持している水量は少ないですが水量の変動を吸収する役割も有ります。

サージタンクの数に依る分類

単式サージタンク

single surge tank

単式サージタンク説明図
図は水圧鉄管〜貯水池を俯瞰した単式サージタンク模式図です。
各部を判り易くするため着色しています。

サージタンクが1箇所です。
一般的な方式です。
通常、圧力導水路と水圧鉄管の間に設けられます。

複式サージタンク

double surge tank

複式サージタンク説明図
図は水圧鉄管〜貯水池を俯瞰した複式サージタンク模式図です。
各部を判り易くするため着色しています。

サージタンクが2箇所(又はそれ以上)で、それぞれのサージタンクを離して設けられる場合に複式となります。
圧力導水路の途中にて注水する場合などにもよく使用されます。
(差動型サージタンクは複式の単動型+制水口型と見る事も出来そうですが、一体化しているためあくまでも単式の差動型です)

サージタンクの形状に依る分類

サージタンクは以下の単体又は複数の種類を組み合わせて使用されます。

単動型(単動式)サージタンク

simple surge tank

1908年11月にスイスのプロージル[Prásil]氏、1909年にスイスのローベルト・デュプ[Robert Dubs]氏により理論が発表された方式です。
物としてはそれ以前から在ったようです。

単動型サージタンク説明図1
単動型サージタンクの模式図(その1)です。
各部を判り易くするため着色しています。

管路に径の太い管を接続した型のサージタンクです。
サージを水位の上下によって吸収しますが、水位の変動の影響が水圧管路へ跳ね返ってしまうため条件によっては共振を起こす恐れが有ります。
(実際の設置時には共振条件を回避するように設計されます)
小径だとサージへの応答速度は速いが吸収容量は低く、大径だとサージへの応答速度は遅いが吸収容量は高くなります。


単動型サージタンク説明図2
単動型サージタンクの模式図(その2)です。
各部を判り易くするため着色しています。

高さのある単動型サージタンクの場合、サージタンク下部から途中までの径を細くする場合も有ります。
(完全な)単動型と水室型の間の形式とも言えますが単動型に区分されます。
単動型の他に制水口型でもこの形態を採っている事が有ります。

水室型(水室式)サージタンク

chamber surge tank

ジョンソンさんの差動型サージタンクに対抗して欧州で考案された方法らしいです。

水室型サージタンク説明図
水室型サージタンク(2室)の模式図です。
各部を判り易くするため着色しています。

単動型サージタンクの途中に空間(水室)を設けた型のサージタンクです。
動作的には遅延時間が長い点を除いて大径の単動型サージタンクと大体同じですが地理的条件等で大径の単動型サージタンクが設けられない場合などに設置されます。
水室の数は1室〜3室程度ですが2室が多く用いられているようです。
サージタンク内の水位が上昇する際、水室(図では上部水室)に流れ込み水位の上昇が抑えられるため、圧力の上昇も抑えられサージが吸収されます。
図の2室タイプでは、水位が下がる場合にも下部水室に依って水位の低下を抑えサージの吸収を行います。

(単動)制水口型(制水口式、制水孔型、制水孔式)サージタンク

restricted orifice surge tank

サージタンクの型としての呼称はオリフィスですが制水口そのものはポート[port]と呼ばれます。
制水口部分を(図の単動型以外にも)他型式のサージタンクと組み合わせて使用する事も多いです。

制水口型サージタンク説明図
制水口型サージタンクの模式図です。
各部を判り易くするため着色しています。

単動型サージタンクの、管路とサージタンクの接続部にサージタンク径よりも小さい孔(ポート:制水口、制水孔)を設けた型のサージタンクです。
サージでサージタンク水位が上下する際、ポートを水が通る際の抵抗によってサージを吸収します。
ポートの孔の大きさや形状によって動作特性を調整できます。

差動型(差動式)サージタンク

differential surge tank

米国のレイモンド・D・ジョンソン[Raymond D. Johnson]氏によって1911年に考案、1914年12月に同氏により理論が発表された方式です。
両図の形共にジョンソンさんの考案ですが、ライザー及びディファレンシャルタンクを上部のみに設けた形は日本では敢えて「ジョンソン差動型(ジョンソン型差動式)サージタンク」と称しているようです。

差動型サージタンク説明図
差動型サージタンクの模式図です。
ライザーとポートを同径で描いています。
各部を判り易くするため着色しています。

サージタンク内にライザー[riser]と呼ばれる細めの管を設け、ディファレンシャルタンク[differential tank](差動型サージタンクのライザーを除いた部分)にはポートを設けてあります。

サージが発生するとライザー及びディファレンシャルタンクの両方にサージ圧が掛かりますが、
ライザーの方が開口径に比して水量が少ないため先に水位が変化、ディファレンシャルタンクは開口径に比して水量が多い(ポートの抵抗が有る)ため遅れて水位が変化します。
この一連の動作によりサージが吸収されます。
ライザーとディファレンシャルタンクの共振周波数が異なる上、ディファレンシャルタンクにポートの抵抗が有るため共振を起こし難く、大きさに比してサージの吸収力が高いサージタンクです。

径の細い単動型サージタンクと径の太い制水口型サージタンクを組み合わせた方式とも言えます。


ジョンソン差動型サージタンク
ジョンソン差動型サージタンクの模式図です。
各部を判り易くするため着色しています。

差動型サージタンクのライザーとディファレンシャルタンクを上部のみに設け水圧鉄管との間をサージシャフト[surge shaft]にて接続した形です。
高さの有るサージタンクの場合に、昔はこの形式が費用面で有効であった様ですが、現在では材料費よりも人件費の方が掛かるために1つ上の模式図の形が用いられています。
日本では佐久発電所の建設時に設置された物が有名で当時世界一の高さのサージタンクでした。

この形式の露出サージタンクは現在では残存している物のみです。
(サージシャフトで接続する露出サージタンクは差動型以外に単動型、制水口型でも残存しています)


ジョンソン差動型サージタンクおまけ画像

おまけで佐久発電所の旧サージタンクを描いてみました。
寸法が不明な部分は目見当で、その他諸々省略、簡略化して描いています。
内部は1つ上の模式図と同じ構造になっています。

溢水型(溢水式、溢流型、溢流式)サージタンク

flood surge tank

溢水型サージタンク説明図
溢水型サージタンクの模式図です。
各部を判り易くするため着色しています。

単動型サージタンクの高さを低くし、サージが発生し水位が上昇した際に上昇分を溢れさせてサージを吸収する型のサージタンクです。
溢れた水は排水されるため溢水するまでの高さを超える分のサージは消失します。

横置型サージタンク

(takeさんよりお教え頂きました。ありがとうございます)

横置型サージタンク
横置型サージタンクの模式図です。
各部を判り易くするため着色しています。
本図ではリングガーダー支持にて描いています。

サージタンクを横倒し(斜め)にし、地面に置いた型のサージタンクです。
一般的な立型のサージタンクと比べると、管路径に対して大気圧の掛かる面積が大きくなるため細くて済むそうですが、長さは長くなります。
地面に固定できるので特に高さのあるサージタンクの場合に費用面で有効です。
鳴子発電所に初めて設けられました。


参考文献、資料、情報、ウェブサイト等

新井榮吉氏著「サージタンク」

土木学会様 土木學會誌 第一巻第五號 秋元繁松氏著「論説 しんぷる、さーじんぐ、たんく」

米国開墾局様ウェブサイト

東京電力様 佐久発電所 屋外展示資料

電源開発様 奥清津、奥清津第二発電所 屋外展示資料

その他



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