構造に於けるダムの種類

ダムとは、堰(堰堤)の堤高(基礎岩盤より堤頂までの高さ)が15m以上(日本における基準)の物を指します。
国際的には堤高15m以上をハイダム[high dam]、それに堤高5〜15mで貯水容量300万立方メートル以上のダムを加えてラージダム[large dam]と呼んでいます。

15m未満の物は堰と呼ばれます(国際的にはローダム[low dam]、スモールダム[small dam])が、15m未満であってもダムと呼ばれている事もあります。

灌漑(かんがい)用水の取水に用いられる取水堰は頭首工(とうしゅこう)とも呼ばれます。
(特に灌漑用水の場合、土砂を盛り立てるなどした水を御する構造物を広く堰と呼びますので、導水路そのものが堰と名付けられる事も多いです)

洪水時、堤体自身に設けた洪水吐より越流させるか、ダム堤体以外に設けた洪水吐より越流させるかで、越流型ダム、非越流型ダムに分けられます。
更に、水圧を受け止める方法及び構造により以下の種類に分けられます。

その他、水圧を受け止める方法に拠る区分ではありませんが、
石やレンガを積み上げて堤体とした石積み(レンガ積み)ダム[masonly dam]、
ダムの表面に石積み、石張りをした練石積み、石張りダム[stone facing dam]などがあります。

水の力をダム自身の重さに依って支えるもの

重力式ダム[gravity dam]

コンクリートの固化作用を用いて堤体を一体化したダムで、土石を用いたフィルダムとは区別されています。

化学的に固めているために堤体の傾斜を急に出来、河川の流れ方向の大きさ(ダム敷幅)が小さくて済みますが、重量が集中するため岩盤まで掘り進んで設けられます。

直線重力式コンクリートダム[straight concrete gravity dam]
直線重力ダム図
下流左岸から見たイメージ図です。

上から見た形状が直線状の重力式ダムです。
曲線重力式コンクリートダム[curved concrete gravity dam]
曲線重力ダム図
下流左岸から見たイメージ図です。

上から見た形状が曲線状の重力式ダムです。
重力式として力が作用する働きが主となります。
アーチ式として力が作用する働きが主の場合は重力アーチ式となります。
その他の重力式コンクリートダム[concrete gravity dam]
その他の重力ダム図
下流左岸から見たイメージ図です。

直線と曲線が組み合わさった形状などの重力式ダムです。

中空重力式ダム[hollow gravity dam]

国際的にはバットレスダム[buttress dam]として扱われています。
バットレスダムよりも登場は遅く、静岡県の井川ダム(昭和32年竣工)が日本初となります。

中空重力式コンクリートダム[concrete hollow gravity dam]
中空重力ダム背面図
下流左岸から見たイメージ図です。

重力式コンクリート内部に空洞を設けてコンクリートの使用量を減らしたダムです。
コンクリートが節約できますが現在は人件費の方が高いため採用されていません。
直線、直線と曲線の組み合わせのものがありますが特に区分されていないようです。
中実の重力式ダムと比べるとダムの重量が軽くなる分、上流面の傾斜は緩くなっています。
中空重力ダム横断面図
下流左岸から見たイメージ図です。

ダムを横に切って下流から見た図です。
I字状のブロックを1ブロックずつ下から上まで作って接合するのでは無く、それぞれのブロックを大体同時に谷の傾斜など勘案しながら打設して作ります。
中空重力ダム透過図
下流左岸から見たイメージ図です。

ダムを透過して下流から見た図です。
中空重力ダム正面図
上流左岸から見たイメージ図です。

ダムを上流から見た図です。
ダムに掛かる力を分散させるために上流側は規則的に盛り上がっています(ダイヤモンドヘッドと呼ばれています)
中空重力ダム縦断面図
上流左岸から見たイメージ図です。

ダムを縦に切り、1ブロックを取り出して上流から見た図です。
完成後に他形式よりも明らかな縦の継ぎ目が有るのもこのダムの特徴と言えます。

フィルダム[fill dam]

重力式ダムの一種ですが、岩や土石を用い物理的に締め固めて一体化したダムで、コンクリート製の重力式ダムとは区別されています。

化学的に固めていないために堤体の傾斜は緩く、河川の流れ方向の大きさ(ダム敷幅)が広くなりますが、
却って重量が分散されるため地盤のあまり良くないところでも設けられる利点があります。

上面から見た形状が直線、曲線のものがありますが特に区分されていないようです。
河川勾配が急な場合、曲線状に施工することにより材料が少なくて済みます。

コア[core]層は水を遮る層です。
フィル[fill]層はダムとしての重量、強度を稼ぐための層です。
トランジション[transition]層(フィルター層とも呼ばれます)はコア層とフィル層との間の粒度の差が非常に大きいため、その間を中間の粒度の土石で埋めてコア層を保護するための層です。
(フィルター層をよりコア層へ近い方とし、トランジション層とフィルター層を別々に区分して取り扱う場合も有ります)

中央遮水壁(センターコア)型ロックフィルダム[rock fill with center core dam]
センターコアロックフィルダム図
下流左岸から見たイメージ図です。

ダム中央に鉛直に遮水層(粘土が多い)を設け、堤体は岩や土石を盛立てたダムです。
重心が中央に来るため最も安定していますが、雨天だとコア層の盛り立てを避ける為に堤体の盛立が出来ないので施工期間が天候に左右され易いです。
傾斜遮水壁型ロックフィルダム[rock fill with slant core dam]
傾斜コアロックフィルダム図
下流左岸から見たイメージ図です。

ダム中央より斜めに遮水層(粘土が多い)を設け、堤体は岩や土石を盛立てたダムです。
この形式だと雨天時には盛立を避けるコア層を除いてフィル層(画像左下側)の盛立が出来る為、施工期間が短縮できますが重心が偏るため施工数は少なめです。
表面遮水(フェイシング)型ロックフィルダム[rock fill with asphalt facing dam]、[rock fill with concrete facing dam]
傾斜コアロックフィルダム図
下流左岸から見たイメージ図です。

ダム表面にアスファルトやコンクリートで遮水層(図中黒い部分)を設け、堤体は岩や土石を盛立てたダムです。
アース(フィル)ダム[earth (fill) dam]
粘土などで遮水層を設け、堤体は土砂を盛立てたダムです。
遮水層などを分けて施工するゾーン型フィルダムと、分けて施工しない均一型フィルダムが有ります。

水の力を水そのものの重さ(水圧)を利用して支えるもの

以前よりこの形式は在りましたが、昭和3(1928)年、物部長穂工学博士により耐震バットレス理論(外観上の特徴として桟の部分にコの字型の補強構造、上ほど扶壁の壁厚が薄い構造)として発表され国内で施工例が増えました。
しかし、人件費の高騰、凍害対策の煩雑さなどにより急速に施工されなくなりました。
この当時はバットレスホローダム[buttress hollow dam]と呼ばれていました。
北海道の笹流ダムが日本初、発電用としては岡山県の恩原ダム(昭和2年竣工)が初となります。

バットレス(鉄筋コンクリート)ダム[(reinforced concrete) buttress dam]
バットレスダム図
下流左岸から見たイメージ図です。

水圧を受け止める鉄筋コンクリートの壁(遮水壁)を鉄筋コンクリートの格子状構造物(扶壁:バットレス)で支えるダムです。
コンクリートを大幅に節約できますが構造が複雑で手間が掛かるため、物資が不足している時代に作られたのみです。
水の重量をダム全体を押さえ込む力として大きく作用させるため遮水壁の角度は緩くなっています。

水の力を両岸の岩盤に依って支えるもの

コンクリートの固化作用等を用いて堤体を一体化したダムです。
堤体には圧縮方向の力が掛かるためコンクリートは正に打って付けの材料と言えます。

アーチダムの端は直接岩盤に接続されますが、地理的条件により直接接続出来ない場合、ダムの端(翼)に重力ダム(ウイングダム)[wing dam]を設ける事があります。
この場合でも複合ダムでは無くアーチダムとして扱われています(例:富山県の黒部ダム

アーチダムは一般的に左右対称の曲率ですが左右非対称の非対称アーチダム[asymmetrical arch dam]もあります。

アーチ式ダム[arch dam]

円筒アーチ式コンクリートダム[concrete cylindrical arch dam]
円筒アーチダム図
下流左岸から見たイメージ図です。

ダムを上から見た場合、円筒(円)の形状をしています。
中小型のダムを中心に用いられています。
ドーム(半球)アーチ式コンクリートダム[concrete dome arch dam]
ドームアーチダム図
下流左岸から見たイメージ図です。

半球の形状を採り入れたダムです。
水がダムを押す力を上下で比べた場合に他のアーチ式ダムよりも均等になるため、大型のダムを中心に用いられています。
放物線、双曲線アーチ式コンクリートダム[concrete parabolic arch dam]、[concrete hyperbolic arch dam]
放物線、双曲線アーチダム図
下流左岸から見たイメージ図です。

ダムを上から見た場合、放物線、双曲線の形状をしています。
放物線、双曲線状にすることにより水がダムを押す力を左中右で比べた場合に円筒アーチ式ダムよりも均等になるため、堤頂長の長いダムを中心に用いられています。

重力アーチ式ダム[gravity arch dam]

重力アーチ式コンクリートダム[concrete gravity arch dam]
重力アーチダム図
下流左岸から見たイメージ図です。

アーチ式ダムに重力ダムの作用も持たせたものです。
アーチ式として力が作用する働きが主となります。
重力式として力が作用する働きが主の場合は曲線重力式となります。

多重(マルチプル)アーチ式ダム[multiple arch dam]、[multi-arch dam]

多重アーチ式コンクリートダム[concrete multiple arch dam]、[concrete multi-arch dam]
多重アーチダム図
下流左岸から見たイメージ図です。

複数のアーチダムを並べたものです。
個々のアーチ間には重量を持った支持物(スラストコンクリートブロック等)が置かれます。
大変珍しく国内では二連アーチの宮城県の大倉ダム、五連アーチの香川県の豊稔池ダムのみです。

複合ダム

重力式コンクリートダムとロックフィルダムが合わさった形状の物が多いです。
両方のダムがダムとしての基準(堤高15m以上)を満たしていないと複合ダムとして扱われません。

運用方法に於けるダムの種類

河川法により、ダムの運用方法が定義されています。
未来永劫固定された区分では無く、ダム管理者との協議により変更される場合もあります。

「河川法第2章第3節第3款(ダムに関する特則)等の規定の運用について」より。

第1類

その設置に伴い下流の洪水流量が著しく増加するダムで、これによって生じる災害を防止するため、
当該増加流量を調節することができると認められる容量を確保して洪水に対処する必要があるもの

第2類

堆砂によりその上流の河床が上昇したダム又はその設置者が貯水池の敷地として権原を取得した土地の広さが十分でないダムで、
洪水時にその上流の水位が上昇することによって生じる災害を防止するため、貯水池の水位を予備放流水位として洪水に対処する必要があるもの

第3類

貯水池の容量に比して洪水吐きの放流能力が大きいダム又は洪水吐きゲートの操作の方法が複雑であるダムで、
貯水池の水位を予備放流水位として洪水に対処することが、災害の発生の防止上適切と認められるもの

第4類

貯水池の水位を常時満水位として洪水に対処しても災害の発生の防止上支障がないダム

水力発電用取水ダムは第4類に属するものが多いです。

参考文献、資料、情報、ウェブサイト等

資料を利用又は参考にさせて頂いた順に掲載(上が新しい)しています。

河川法に依るダム区分:国土交通省河川局様

国際的なダム区分:一般社団法人 日本大ダム会議様

各方式に於ける日本初のダム情報:一般財団法人 日本ダム協会様 ダム便覧

その他、各地のダム及び水力発電所等の案内板、パンフレット等



2018-07-08河川法上に於けるダム運用方法、参考文献等追加
2017-11-12ローダム、灌漑用水説明追加
2017-09-16ダム定義、フィルダム、バットレスダム説明等修正追加
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